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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)4027号 判決

原告(反訴被告)

沢邊浩一

原告

沢邊衛

被告(反訴原告)

山地秋利

ほか一名

主文

一  原告(反訴被告)沢邊浩一の被告(反訴原告)らに対する別紙目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務は、被告(反訴原告)山地秋利に対し金一六三万〇五七七円及び内一四八万〇五七七円に対する昭和五八年五月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を、被告(反訴原告)亀田光一に対し金三二六万八三一九円及びこれに対する前同日から支払済まで民法所定の年五分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。

二  原告沢邊衛の被告(反訴原告)らに対する別紙目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務はいずれも存在しないことを確認する。

三  原告(反訴被告)沢邊浩一は、被告(反訴原告)山地秋利に対し金一六三万〇八八九円及び内一四八万〇八八九円に対する昭和五八年五月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を、被告(反訴原告)亀田光一に対し金三二六万八三一九円及びこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を各支払え。

四  原告(反訴被告)沢邊浩一のその余の本訴請求、被告(反訴原告)山地秋利及び同亀田光一のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、原告沢邊衛と被告(反訴原告)らとの間では全部被告(反訴原告)らの負担とし、原告(反訴被告)沢邊浩一と被告(反訴原告)らとの間では本訴反訴を通じこれを四分し、その一を原告(反訴被告)沢邊浩一の負担とし、その余を被告(反訴原告)らの負担とする。

六  この判決は第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  原告(反訴被告)沢邊浩一(以下「原告浩一」という。)の被告(反訴原告)山地秋利(以下「被告山地」という。)に対する別紙目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)に基づく損害賠償債務は金五一万九八八七円を超えて存在しないことを確認する。

2  原告浩一の被告(反訴原告)亀田光一(以下「被告亀田」という。)に対する本件事故に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。

3  主文第二項に同旨。

二  本訴請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

三  反訴請求の趣旨

〔被告山地〕

1 原告浩一は被告山地に対し、金五三二万九九六〇円及び内金四八四万九九六〇円に対する昭和五八年五月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は本訴反訴を通じ原告浩一の負担とする。

3 仮執行の宣言

〔被告亀田〕

1 原告浩一は被告亀田に対し、金一一六〇万八五〇五円及びこれに対する昭和五八年五月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告浩一の負担とする。

3 仮執行の宣言

四  反訴請求の趣旨に対する原告浩一の答弁

1  被告山地在び被告亀田の反訴請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は被告山地及び被告亀田の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求の原因

1  別紙目録記載のとおり本件事故が発生した。

2  本件事故により被告らに生じた総損害は、被告山地につき四一一万六四七七円、被告亀田につき一九四万六六三一円であり、原告浩一は被告らに対し損害賠償責任を負うが、本件事故の発生については後記五の1のとおり被告らにも過失があるから、被告らの損害の四割を減ずるのが相当であり、結局被告山地の損害額は二四六万九八八七円、被告亀田の損害額は一一六万七九七九円を超えるものではないところ、原告浩一は、少なくとも被告山地に対し一九五万円、被告亀田に対し一二六万九〇三二円を各支払済である。

3  しかるに原告浩一及び原告沢邊衛(以下「原告衛」という。)に対し、被告山地は既払額の他に五〇〇万円、被告亀田は既払額の他に六〇〇万円の支払を要求している。

4  よつて、原告らは、本訴請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  本訴請求の原因に対する被告山地及び同亀田の認否

1  本訴請求の原因1は認める。

2  同2は、原告浩一が損害賠償責任を有することは認めるが、その余はいずれも争う。

3  同3及び4は争う。

三  反訴請求の原因

〔被告山地〕

1 本件事故の発生

別紙目録記載のとおり本件事故が発生した。

2 責任原因(自賠法三条)

原告浩一は、原告車を保有し、自己のために運行の用に供していた。

3 損害

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

頸椎捻挫、中心性損傷、左肩左膝関節部打撲

(2) 治療経過

入院

昭和五八年五月二〇日から同月三一日まで高井病院

通院

昭和五八年六月二日から昭和五九年一月九日まで松井整形外科(実日数一三五日)

(3) 後遺症

昭和五九年一月九日ころ症状固定(自賠法施行令二条別表等級一四級に該当すると認定された。)

(二) 治療関係費

(1) 入院雑費 一万二〇〇〇円

入院中一日一〇〇〇円の割合による一二日分

(2) 入院付添費 四万二〇〇〇円

入院中一日三五〇〇円の割合による一二日分

(3) 装具費 一万〇五〇〇円

(三) 逸失利益

(1) 休業損害

被告山地は、本件事故当時パチンコ遊戯機のいわゆる釘師として稼働し、少なくとも一か月平均八〇万円の収入を得ていたが、本件事故により、実入通院日数一四七日間休業を余儀なくされ、三九二万円の収入を失つた。

(2) 後遺障害に基づく逸失利益

被告山地は前記後遺障害のため、三年間その労働能力を五パーセント喪失したものであるから、被告山地の後遺障害に基づく逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、八九万二八〇〇円となる。

(四) 慰藉料

入限院分 八〇万円

後遺症分 六七万五〇〇〇円

(五) 弁護士費用 四八万円

4 損害の填補

被告山地は次のとおり支払を受けた。

(一) 自賠責保険金一三四万三四〇〇円

(二) 原告浩一から一五万八九四〇円

5 よつて、被告山地は原告浩一に対し、損害賠償金五三二万九九六〇円及び内弁護士費用を除く金四八四万九九六〇円に対する本件不法行為の日の後である昭和五八年五月二一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

〔被告亀田〕

6 本件事故の発生

別紙目録記載のとおり本件事故が発生した。

7 責任原因(自賠法三条)

原告浩一は、原告車を自己のために運行の用に供していた。

8 損害

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

骨盤骨折、大腿骨顆内骨折、右膝関節内側靱帯不全断裂

(2) 治療経過

入院

昭和五八年五月二〇日から同年八月三日まで高井病院

同年一〇月六日から同年一一月二四日まで同病院

通院

昭和五八年九月一〇日から河野外科病院

同年一二月一三日から昭和五九年五月二八日まで高井病院

(3) 後遺症

昭和五九年五月二八日、右下肢の機能障害が症状固定(自賠法施行令二条別表等級一二級該当と認定された。)

(二) 治療関係費

(1) 入院雑費 一二万六〇〇〇円

入院中一日一〇〇〇円の割合による一二六日分

(2) 入院付添費 四二万円

入院中被告亀田の妻が付添い、一日三五〇〇円の割合による一二〇日分

(3) 通院交通費 三万二七〇〇円

(三) 逸失利益

(1) 休業損害

被告亀田は事故当時パチンコ遊戯具の調整の仕事をして、事故前一年間に五五二万九四〇〇円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五八年五月二〇日から昭和五九年一月三一日まで休業を余儀なくされ、その間左記算式のとおり三八九万三三〇三円の収入を失つた。

(算式)

五五二万九四〇〇×二五七÷三六五=三八九万三三〇三

(2) 後遺障害に基づく逸失利益

被告亀田は前記後遺障害のため、五年間その労働能力を二〇パーセント喪失したものであるから、被告亀田の後遺障害に基づく逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり四八二万六五〇二円となる。

(算式)

五五二万九四〇〇×〇・二×四・三六四四=四八二万六五〇二

(四) 慰藉料

入通院分 二〇〇万円

後遺症分 二〇〇万円

(五) 弁護士費用 一〇〇万円

9 損害の填補

被告亀田は次のとおり支払を受けた。

(一) 自賠責保険金二〇九万円

(二) 原告浩一から六〇万円

10 よつて、被告亀田は原告浩一に対し、損害賠償金一一六〇万八五〇五円及びこれに対する本件不法行為の日の後である昭和五八年五月二一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  反訴請求の原因に対する原告浩一の認否

1  反訴請求の原因1及び2は認める。

2  同3の(一)及び(二)は認めるが、(三)ないし(五)は不知もしくは争う。

3  同4は認める。

4  同5は争う。

5  同6及び7は認める。

6  同8(一)(1)、(2)の内高井病院への入通院状況、(3)及び(二)(1)は認めるが、その余はいずれも不知。

7  同9は認める。

8  同10は争う。

五  原告浩一の主張

1  過失相殺

本件事故の発生については被告山地及び同亀田にも、交通量の多い本件道路を横断するに当り、近くの横断歩道(北方約五〇メートル及び南方約七〇メートルに設置されている。)を利用せず、かつ、左右の安全を確認することもなく、漫然通過車両の直後から原告車の進路前方にとび出してきた過失があるから、損害賠償額の算定にあたり少なくとも四割過失相殺されるべきである。

2  損害の填補

本件事故による損害については、被告らが自認している分以外に、次のとおり損害の填補がなされている。

(一) 被告山地に対し治療費四九万五六〇〇円

(二) 被告亀田に対し治療費九八万五九一二円及びタクシー代として一万一三三〇円

六  原告浩一の主張に対する被告らの答弁

〔被告山地〕

1 原告浩一の主張1は争う。

2 同2は認めるが、被告山地は治療費として四九万五六〇〇円の損害を蒙つた。

〔被告亀田〕

3 同1は争う。

4 同2は認めるが、被告亀田は治療費として九八万五九一二円の損害を蒙つた。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の発生

別紙目録記載のとおり本件事故が発生したことは各当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  原告浩一

原告浩一が、原告車を運行の用に供していたことは関係当事者間に争いがない。従つて、原告浩一は自賠法三条により、被告山地及び同亀田が本件事故によつて蒙つた損害を賠償する責任がある。

2  原告衛

原告衛の本件事故に基づく損害賠償責任については、被告らはいずれも何らの主張をしていない。従つて、その余について判断するまでもなく、原告衛に損害賠償責任が存することを認めることはできない。

三  損害

そこで、次に原告浩一と被告らとの関係で損害の点について判断する。

1  被告山地

(一)  受傷、治療経過及び後遺症

被告山地が、本件事故により反訴請求の原因3(一)(1)ないし(3)のとおり受傷して入通院治療を受けたが、自賠法施行令二条別表等級一四級に認定された後遺症状が固定したことは関係当事者間に争いがない。

(二)  治療関係費

被告山地が、治療費四九万五六〇〇円、入院雑費一万二〇〇〇円、入院付添費四万二〇〇〇円及び装具費一万〇五〇〇円の損害を蒙つたことは関係当事者間に争いがない。

(三)  逸失利益

(1) 休業損害

被告山地本人尋問の結果、いずれもこれにより真正に成立したと認められる乙第一号証ないし第六号証及び弁論の全趣旨によれば、被告山地は、本件事故当時六〇歳で、いわゆる釘師として稼働し、主に夜間大阪府内及び奈良県内のパチンコ店七店に通つてパチンコ遊戯機の調査をしており、本件事故前少なくとも被告山地主張のとおり一か月平均八〇万円の実収入を得ていたものと認められるところ、被告山地は、前記受傷のため昭和五八年五月二〇日から後遺症状の固定した昭和五九年一月九日まで就労を制限されたが、前記受傷の程度、治療及び生活の状況等諸般の事情を考慮すると、昭和五八年五月二〇日から同月三一日までは一〇〇パーセント、同年六月一日から昭和五九年一月九日までは通じて四〇パーセントの収入の逸失が、本件事故と相当因果関係のある休業損害であると認めるのが相当であり、左記算式のとおり二六九万八六六六円となる。

(算式)

八〇万÷三〇×(一二+二二三×〇・四)=二六九万八六六六

(2) 後遺障害に基づく逸失利益

被告山地本人尋問の結果並びに前記認定の受傷及び後遺障害の部位程度によれば、被告山地は前記後遺障害のため、昭和五九年一月一〇日から少くとも二年間、その労働能力を五パーセント喪失するものと認められるから、被告山地の後遺障害に基づく逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり八九万二八〇〇円となる。

(算式)

八〇万×一二×〇・〇五×一・八六=八九万二八〇〇

(五)  慰藉料

本件事故の態様、被告山地の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度その他諸般の事情を考えあわせると、被告山地の慰藉料額は一二〇万円とするのが相当であると認められる。

2  被告亀田

(一)  受傷、治療経過及び後遺症

被告亀田が、本件事故により反訴請求の原因8(一)(1)のとおり受傷したこと、(2)のとおり高井病院で入通院治療を受けたが、(3)のとおり自賠法施行令二条別表一二級に認定された後遺症状が固定したことは関係当事者間に争いがない。

被告亀田は、その他河野外科病院にて通院治療を受けたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(二)  治療関係費

(1) 治療費及び入院雑費

被告亀田が、治療費九八万五九一二円及び入院雑費一二万六〇〇〇円の損害を蒙つたことは関係当事者間に争いがない。

(2) 入院付添費

被告亀田本人尋問の結果及び経験則によれば、被告亀田は前記入院期間中一二〇日間付添看護を要し、その間一日三五〇〇円の割合による合計四二万円の損害を蒙つたことが認められる。

(3) 通院交通費

被告亀田本人尋問の結果及びいずれもこれにより真正に成立したと認められる丙第七号証の一ないし七によれば、被告亀田は、前記治療のための通院交通費として少なくとも三万二七〇〇円を要したことが認められる。

(三)  逸失利益

(1) 休業損害

被告亀田本人尋問の結果、いずれもこれにより真正に成立したと認められる丙第五号証、第六号証の一ないし三及び第八号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、被告亀田は、本件事故当時六八歳で、いわゆる釘師として稼働し、大阪市内のパチンコ店三店に通つてパチンコ遊戯機の調整をしており、本件事故直前の一年間(昭和五七年五月から昭和五八年四月まで)に五二二万九四〇〇円の収入を得ていたが、交通費及び道具代等の必要経費を控除した所得は、右収入の九〇パーセント相当であると考えられるから、被告亀田の本件事故前の実収入は四七〇万六四六〇円であると認められるところ、被告亀田は、前記受傷のため昭和五八年五月二〇日から昭和五九年一月三一日まで休業したが、前記受傷の程度、治療状況等諸般の事情を考慮すると、昭和五八年五月二〇日から同年一一月二四日までは一〇〇パーセント、同月二五日から昭和五九年一月三一日までは九〇パーセントの収入の逸失が、本件事故と相当因果関係のある休業損害であると認めるのが相当であり、左記算式のとおり三二二万六一八一円となる。

(算式)

四七〇万六四六〇÷三六五×(一八九+六八×〇・九)=三二二万六一八一

(2) 後遺障害に基づく逸失利益

被告亀田本人尋問の結果並びに前記認定の受傷及び後遺障害の部位程度によれば、被告亀田は別記後遺障害のため、少くとも四年間、その労働能力を一四パーセント喪失するものと認められるから、被告亀田の後遺障害に基づく逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり二三四万八五三二円となる。

(算式)

四七〇万六四六〇×〇・一四×三・五六四三=二三四万八五三二

(四)  慰藉料

本件事故の態様、被告亀田の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度その他諸般の事情を考えあわせると、被告亀田の慰藉料額は三一〇万円とするのが相当であると認められる。

四  過失相殺

1  いずれも成立に争いのない甲第六号証ないし第一二号証、被告山地(後記採用しない部分を除く。)及び被告亀田各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件道路は、市街地を南北に通じる歩車道の区別された(その境にはガードパイプが設置されている。)、車道幅員合計九・六メートルのアスフアルト舗装の県道であり、交通量も多く、本件事故発生地点の北方約五〇メートル地点には信号機の設置された横断歩道がある。また、本件事故現場付近は最高速度が時速四〇キロメートルと指定されている。原告浩一は、本件事故当時、原告車を運転して時速四〇キロメートルで本件道路を南進走行していたが、本件事故発生地点の約六二・五メートル手前にさしかかつた際、前方約五七・九メートルを対向進行してくる大型貨物自動車が中央線側に寄つたためその前照灯及びフオグランプに目がくらみ視力を奪われたにもかかわらず、若干減速したのみで時速約三五キロメートルで南進走行し続けたため、約五二メートル進行した地点で視力が回復したところ、進路前方約一一・九メートルの地点を西から東に横断しようとしている歩行者三名を発見し、急制動の措置を講じ、左転把したが及ばず、原告車右ハンドル部分を被告亀田及び被告山地に衝突させた。他方、被告山地及び被告亀田は、本件事故当時、知人と共に三名で本件道路西側の喫茶店を出て、真向いの本件道路東側にあるパチンコ店に向かうため本件道路を横断しようとして、被告山地及び亀田ともに右側(南方)から北進してくる車両が途切れたときに、左側(北方)を確認したが、北進する大型貨物自動車もあつて、南進してくる車両に気づかなかつたのであるが、南進してくる車両はないものと思い、前記ガードパイプの設けられていない部分から三名が南北に一列になつて、西から東に向かい早足で横断を開始したところ、南行車線中央付近で南進してきた原告車と衝突したものである。

被告山地本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし、これを採用することはできず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定によれば、原告浩一は、原告車を運転するに当り、対向車の前照灯等の照射により視力が奪われたのであるから、視力が回復し、前方注視が可能となるまで一時停止もしくは最徐行して走行すべき注意義務があるのに、これを怠り、若干減速したのみで漫然時速三五キロメートルで進行し続けた過失があり、他方被告山地及び被告亀田は、交通量の多い本件道路を横断するに当り、横断歩道外の地点を、左方の安全を十分に確認することなく横断した過失があると認められる。

3  右認定の原告浩一、被告山地及び被告亀田の各過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として被告山地及び被告亀田の損害の各三割五分を減ずるのが相当と認められる。

従つて、被告山地については前記損害額合計五三五万一五六六円、被告亀田については前記損害額合計一〇二三万九三二五円から各三割五分を減じて被告らの各損害額を算出すると、被告山地は三四七万八五一七円、被告亀田は六六五万五五六一円となる。

五  損害の填補

1  反訴請求の原因4及び原告浩一の主張1の事実は、関係当事者間に争いがない。

よつて、被告の前記損害額から右填補分一九九万七九四〇円を差引くと、残損害額は一四八万〇五七七円となる。

2  反訴請求の原因9及び原告浩一の主張1の事実は、関係当事者間に争いがない。

よつて、被告亀田の前記損害額から右填補分三六八万七二四二円を差引くと、残損害額は二九六万八三一九円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、被告らが原告浩一に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は被告山地につき一五万円、被告亀田につき三〇万円とするのが相当であると認められる。

七  結論

よつて、原告衛の本訴請求は全て理由があり、原告浩一の本訴請求は、原告浩一の本件事故に基づく損害賠償債務は、被告山地に対し金一六三万〇五七七円及び内弁護士費用を除く金一四八万〇五七七円に対する本件不法行為の日の後である昭和五八年五月二一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、被告亀田に対し金三二六万八三一九円及びこれに対する前同日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を超えて存在しないことの確認を求める限度で、また、被告らの各反訴請求はいずれも原告浩一に対し右各金員の支払を求める限度で各理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川誠)

目録

1 日時 昭和五八年五月二〇日午後七時三〇分頃

2 場所 奈良県天理市川原城町三七八番地先路上(以下「本件道路」という。)

3 加害車 自動二輪車(一奈と一五六七号、以下「原告車」という。)

右運転者 原告浩一

4 被害者 被告山地及び被告亀田

5 態様 本件道路を西から東に横断中の被告山地及び被告亀田に南進走行してきた原告車が衝突したもの

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